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鑑賞の作法@古都祝奈良―時空を超えたアートの祭典―


例えばビールは一気に流し込んでもおいしいけれど、コーヒーってゆったり飲まないと、その良さを味わえないと思います。それと一緒で、炭酸みたいにがぶ飲みできるアートと、そうではないアートがあるのかもしれない。

先日行った古都祝奈良―時空を超えたアートの祭典―は一気に飲むと何が何だか分かんない芸術祭だと思います。

蔡國強@東大寺「船を作るプロジェクト」

歴史的な場所で展示してある作品を見るための作法

古都祝奈良の特徴は、まず展示場所が東大寺や薬師寺など超がつくほど濃い場所であることがあげられます。教科書に書かれているようなストーリーいっぱいのいわくつきの場所では、好き勝手に作品を設置してはならないという引力が働くのか…

アーティストはそれはそれは繊細に場所に寄り添う作品を制作していました。繊細ってことは裏を返せば、へ、それだけ?って言いたくなるようなパッと見地味な作品に仕上がってしまっています。

アイシャ・エルクメン@西大寺「池からプールから池へ」

池から水をくみ、プールに流し、その水をまた池に戻していく作品。

始めに見た作品がこれなんですが、もうこの時点で、家族からは非難めいた視線が....

「西大寺の池をシルクロード東端の奈良に見立て、隣にプールを制作。東ローマ帝国の中心、現代のトルコを代表する作家はプールと池を繋ぎ、水を浄化、循環させる装置をアートとして見せます。東西の文化交流、伝統と現代の不思議な融合が見えてきます。」とコンセプトブックには書いてあります。

そう読み解くと濁りがだんだん薄まっていく過程に思いをはせることができ、そのコンセプトが美しい作品だと思えますが、いかんせんまだ濁ってるし!

ダイアナ・アルハディド@唐招提寺「ユニコーンの逃避行」

鑑真が建立した唐招提寺の中の滄海池には、鑑真が災害を治めるために竜王の化身である白い石をまつったという伝説があります。その池に中世のタペストリーに描かれたユニコーンを思いすかした作品なんですが、「どれが白い石?埋めてんの?池の下にあるの?」と皆解説の一部に引っ張られる始末。

例えば、この作品も、唐招提寺の中に、鑑真が中国から持ち込んだ様々な意匠を受け止め、日本までの道程に静かに思いをはせたときに、ようやく腹に落ちる作品かもしれません。

観光地で楽しむ際の作法

また、今回旧市街であるならまちでも、ならまちアートプロジェクトと称して旧家に作品が展示されています。

ならまちは町家が並ぶ素敵な風情の町に、女子が好きそうなカフェや小物屋が並ぶおしゃれ観光スポットです。そんなならまちの古民家や町家、神社などにアートが展示されているます。

紫舟@今西家書院 「言ノ葉は、光と影を抱く」

室町時代における初期の書院造りの遺構として重要文化財に指定され、現在は奈良の名酒、春鹿を作っている今西家の持ち物である今西家書院。この場でもお茶ができ、お隣では春鹿の蔵があり、利き酒もできます。

とっくりも鹿でかわいい。

黒田大祐@東城戸町会所(大国主命神社)「地風」

また、お世辞にも綺麗といえない町会所で展開されていたインスタレーションは、この場所にあった古道具たちがインタビューに答える音声が流れています。

柄杓なんでね、あんまり記憶力もよくないんですが...と柄杓が語るなど、何とも言えない味わい深いインスタレーションです。観光地の裏にある、町の暮らしが垣間見れて、こういう舞台裏の仕掛けはアートならではだと感じました。

つまりここも、ゆったり町を寄り道しながら、ついでにアートを巡るという設計になっていたわけです。

ついでのアート

私はつい、芸術祭に行くとアートを見にいってしまうのですが、今回のように展示される場所に歴史的建造物や町に意味がある場合、もっと場所をゆっくり見て、そのついでにアートを見なければならなかったのではないかと思います。

アート単体では視覚的刺激が少ないじっくり考えないと分からない作品が多かったのですが、それはきちんと場所や町に寄り添った結果であることを早めに気づけばよかった。

今回、私は早足で作品を見ることばかりに気を取られ、町とアートとの相互作用の解釈が十分できていませんでした。芸術祭でも、作品を見る芸術祭と作品が「ついで」である芸術祭があるのだと今回改めて気づかされました。奈良だから日帰りできると踏んだ計画が甘かった!

古都祝奈良にいかれる際は一泊二日とって、ゆったりと回ることをお勧めします。

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