常に近場ですませているようですが、細見美術館で開催されている杉本博司 趣味と芸術―味占郷を見に行きました。
杉本博司といえば、凪いだ海の写真などで有名な現代作家です。写真だけでなく、インスタレーションなどの作品も有名です。
で、今回は、婦人画報の連載されていた、アーティスト自身が架空の割烹料理の店主となり、文化人や役者をその人に合わせた床の間のしつらえと料理でもてなす企画の展示です。
婦人画報といえば、重厚感のある雑誌と共に、ターゲットが完全にデパートの外商が来るレベルの金持ち相手にしているとしか思えない中身で有名な、ハイソな雑誌です。
その婦人画報が選りすぐった、芸能人、文化人を、アーティストが選りすぐった趣味のいい展示と料理でもてなすこの企画。
ちょっと玄人好みの現代作家×婦人画報×床の間@京都
敷居の高い、嫌みな店であるという店主の言葉通り、展示もハイカルチャーの重みに窒息しそう
もちろん、今回写真はNGなのでインターネットミュージアムが千葉県立美術館であった展示の様子を動画に挙げているので、それを共有しておきましょう。
床の間に飾られた軸も、置物も、高価な骨とう品から、店主自らが表装した古筆切れやフランスのリトグラフなど、高い物を集めるというよりも、床の間の世界観を構成するために選りすぐられた品々が展示され、哲学的で、控えめで、そして美しい世界が広がっています。
例えば、終戦記念日をテーマに、硫黄島からの手紙という映画に出演した中村獅童を招いた回では、軸は硫黄島の地図に表具を施し掛け軸にしたもの、置物は核融合炉のガラスのぞき窓の一部です。不謹慎に感じる方もおられるかもしれませんが、床の間というデザインコードの中で戦争というテーマを扱うと、このようにしつらえとして昇華されるのね、と感じる作品です。
この展示を見たお客さんが、「杉本さんといえば写真だと思ったけど意外だったね。でもどれも素敵だね。」って話してて、杉本作品を好きな層には、キャプションもない、いつもの杉本作品もあまり展示されていないけど、この世界観はすんなり受け入れられるのだ、と少し驚きました。杉本氏自身がもし、自分の作品がまだ大衆化されていないということを自覚して、このハイカルチャーの内輪ネタにも見える展示を作り上げているとしたら、本展示全体が見事なコンセプトアートになっていると思いました。
豪華ではない高価な世界に価値を見出すためには、嫌らしい話ですが、造詣が必要となってきます。パトロン制度が廃れた今、芸能、文化、アートなどの非日常の生業は、この趣味のいいという金のかかる、しかし伝わりにくい世界をどうやって維持していけばいいのでしょう。
子供の手形とかで構成されるパブリックアート、漫画の原画を展示する人気展示、こんなのもあっていいと思うんだけど、息が詰まるくらい密閉された趣味の世界はどこに向かえばいいのか。
床の間にあしらわれた世界が素敵だなと思った時、この世界を維持できるだけの財力を自分はつぎ込めるのか、そしてつぎ込めないとしたらこの趣味のいい世界がだんだんと衰えるのを傍観していかなければならないのか…
金がほしい…と強く思わせる展示でした。