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サイエンスコミュニケーションとアートを融合する

本書のコンセプト

科学技術の進展により多くのアーティストが科学技術をメディアとしてバイオアートやテクノロジーアートと呼ばれる作品を生み出している。また、科学側もアートという表現を通して科学技術を伝えようという試みが注目されている。

しかし、これらの取り組みの前提として、科学は客観的で理性的、アートは主観的で感性的というステレオタイプな科学像、アート像があることも否めない。科学の営みをアートを通して表現する際には、現代における科学にまつわる社会的営み、そしてそれに付随する文化的側面を踏まえた上での議論が必要である。また、アートに関しても、歴史的、理論的経緯を踏まえて語る必要があるだろう。

まず、現代の科学活動の主観的で文化的側面に着目し、それらを可視化するツールとしてアートを用いたプロジェクトを紹介し、その意義を考察してく。筆者らがこれまで、理系の研究所、大学でアートを通して科学技術を可視化する実践、教育を行ってきた。本書ではそれらの教育、実践活動を通してアートを通して拓く新たなサイエンスコミュニケーション像を提示する。

本書の対象者

本書は、科学とアート論としての視座、科学教育におけるアート教育としての視座を有しているため、下記のような読者を対象としている。

 

理系研究者、芸術系研究者、大学院生、サイエンスコミュニケーター、アーティスト、高等教育関係者

本書の構成

まず第1章では、そもそもサイエンスコミュニケーションの今日的課題を探っていく。

 

第2章、第3章は具体的なアート作品を介したサイエンスコミュニケーションの実践、そしてその意義の検討を行う。具体的には、第2章は、近年サイエンスコミュニケーションにおいてアートがどのように活用されているのかという先行事例を紹介していく。第3章では、アートで取り扱われる科学技術の現状について紹介していく。

第4章、5章からは、アートのシステムとしての要素についてマクロな視点で考えていく。第4章では、アートが取り組む社会との連携、地域での課題に取り組む仕組みについて紹介していく。第5章は、アートがもたらす教育、学習効果というものを検討していく。

 

第6章においてこれまで述べてきた事例からサイエンスコミュニケーションにおけるアートの活用、もしくはアートとのコラボレーションで生み出される新しいコミュニケーションの実際、課題、そして限界と期待について分析していく。

 

第7章では、これまでの事例、議論を振り返り、アート、そしてサイエンスコミュニケーションの可能性と、今後の議論の方向性をまとめる。

​まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーション

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本書のコンセプト

科学技術コミュニケーション自体、21世紀の科学技術観、それに伴う科学技術と社会をめぐる諸問題の様相とともにその活動のあり方を変化させてきた。そのため、科学技術コミュニケーションも、知識のための科学技術コミュニケーションだけでなく、平和のため、開発のため、そして社会における、社会のための科学技術コミュニケーションという、複数の方向性を持つ活動として発展している。

その方向性の一つとして近年、注目されているのがまだ見ぬ科学、そして技術のために語り合う科学技術コミュニケーションである。科学技術は私たちの暮らしの中で必要不可欠なものとなってきている。私たちのインフラだと考えられているエネルギーから、コミュニケーションの要となっている通信機器、そして労働や創造的活動を支えるコンピューター、どれ一つとっても私たちの生活の中に深く、そして当たり前のように埋め込まれている。

この様な研究開発においては、まず社会との対話があり、そこから研究開発が進んでいくと考えられる。これまで私たちは科学やそれに基づく技術を開発し、結果論でその科学技術の有効性やその影響のメリットデメリットを評価してきた。しかし今後科学技術を私たちが使いこなすためには、私たち自身も又自覚的に科学技術に向き合う必要があるだろう。

本書では、そのような時代における科学技術コミュニケーションについて理論と実践を通して紹介することを目指している。今ある科学技術を受容する、活用するための科学技術コミュニケーションはもちろん重要である。ただ、これからのイノベーションの過程で求められていくであろう「まだ見ぬ科学」のための科学技術コミュニケーションについて解きほぐしていこう。

本書の対象者

本書は、アップストリーム段階の科学技術コミュニケーションを取り扱っているため、下記のような読者を対象としている。

 

理系研究者、企業、サイエンスコミュニケーター、大学院生

本書の構成

本書では、まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーションについて、実践の契機となった科学技術コミュニケーション理論、そして実際の実践を紹介し、この新しい科学技術コミュニケーションのあり方について迫っていく。

本当に科学技術コミュニケーションで将来的な科学技術の実装化における社会側の声を収集するという活動は可能なのか。収集された市民の声とはどのようなものだったのか。実践を進めていく上での課題というものは何なのか、というこの新しい科学技術コミュニケーションのあり方について、できるだけ事例とともに検証していく。

 まず第2章では、科学技術と社会との相互依存的な関係性について論じたのち、まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーションの理論的観点を整理していく。そして、この科学技術コミュニケーションにおいて、従来の科学技術コミュニケーション以上の手法の開発、対話の場のデザインが求められる理由について解説していく。

 第3章では、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)、ELSA(Ethical, Legal and Social Aspects)をテーマとした、演劇を用いた科学技術コミュニケーションを展望する。まだ見ぬ科学を検討する際のキーワードであるELSI概念を整理した上で、演劇を用いた社会課題解決の試みである応用演劇や、演劇的手法を用いた科学技術コミュニケーションの事例を紹介する。

 第4章では、筆者の種村がCoSTEPの本科対話の場の創造実習で実施している、討論劇の実践を取り上げる。2019年度に行なった、認知症の予防・改善のための侵襲型のブレイン・マシン・インターフェース(Brain Machine Interface: BMI)を題材とした討論劇の制作過程を詳述し、演劇制作過程に内在している、科学技術コミュニケーションの側面を紹介する[1]

 第5章では、対話という形をとらないコミュニケーションの手法として参加型展示というものを紹介する。参加型展示とは、展示を通して意見を収集する、CoSTEPの実習の中で生まれたコミュニケーションの形式である。本章では、参加型展示の生まれた背景、そして参加型展示を作成するに至った受講生の話し合いの経緯、そしてその展示で収集された科学技術と社会についての参加者のイメージについて紹介する。第5章の分析には、2019年度の「札幌可視化プロジェクト」実習の受講生[2])が取り組み、分析した結果を掲載している。

 第6章では、サイエンスカフェという従来の科学技術コミュニケーションの手法を用いて、まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーションに活用していくための検討について紹介していく。本章では、2017-2019年度にCoSTEPが実施したサイエンス・カフェ札幌[3])の来場者分析を通して、サイエンスカフェというプラットホームについて検討していく。さらにサイエンス・カフェ札幌の枠の中で試行された、まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーションの事例[4])について紹介していく。

 終わりに、本書を通して見えてきた、まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーションの可能性と課題についてまとめていく。

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